大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和59年(わ)173号 判決

本籍・住居

千葉県印旛郡本埜村大字将監三〇七番地

会社役員

小林信善

昭和一一年三月三一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官大谷隼夫出席のうえ、審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金六〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、千葉県印旛郡本埜村大字将監三〇七番地に工場及び事務所を置き、千成餠本舗東工場の名称(昭和四九年から同五六年七月までは、小林三好と共同経営で千成餠本舗の名称を使用)で切餠の製造販売業を営むとともに、昭和五五年及び同五六年は、茨城県鹿島郡鉾田町大竹一〇六六番地にも工場を設けて、はまゆう食品の名称で切餠の製造販売業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  仕入れの水増し、売上収入及び仕入れの一部除外、はまゆう食品名による営業所得を自己の長男である小林英文名義で別申告して所得を分散する等の方法により所得を秘匿したうえ、

一  昭和五五年分の実際総所得金額が八七二五万三六八五円あったのにかかわらず、昭和五六年三月一四日、千葉県成田市花崎町八一二の一二所在の所轄成田税務署において、同税務署長に対し、昭和五五年分の総所得金額が六六一万四七四三円でこれに対する所得税額が八八万二四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額五〇〇三万二〇〇円と右申告税額との差額四九一四万七八〇〇円を免れた

二  昭和五六年分の実際総所得金額が二億七八六二万九二九〇円あったのにかかわらず、昭和五七年三月一五日、前記成田税務署において、同税務署長に対し、昭和五六年分の総所得金額が一二九三万二六九五円でこれに対する所得税額が三九〇万六九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億九三二七万五〇〇〇円と右申告税額との差額一億九〇三六万八一〇〇円を急れた

第二  仕入れの水増し、売上収入の一部除外等の方法により所得を秘匿したうえ、昭和五七年分の実際総所得金額が二億四三六七万六二五八円あったのにかかわらず、昭和五八年三月一五日、前記成田税務署において、同税務署に対し、昭和五七年分の総所得金額が一八一〇万七二八三円でこれに対する所得税額が五七一万五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億六五三九万一〇〇〇円と右申告税額との差額一億五九六八万五〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する昭和五九年二月一五日付及び同月一七日付各供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する昭和五八年四月一一日付、同月二六日付、同年五月二〇日付、同年七月一日付、同年一〇月二八日付、同月三〇日付、同年一一月一二日付及び同月二四日付各質問てん末書

一  被告人作成の各申述書

一  和家秋雄の検察官に対する供述調書(本文一三丁資料二葉添付のもの)

一  岡田邦彦、和家秋雄、村田好夫、小林和子及び川村博の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  検察事務官作成の昭和五九年一月二五日付(九一丁のもの)及び同年二月二四日付各報告書

一  大蔵事務官作成の告発書及び証明書

一  大蔵事務官作成の昭和五八年四月一一日付、同月一二日付、同年五月二〇日付、同年七月五日付、同年一〇月四日付、同月一四日付及び同月一七日付各検査てん末書

一  大蔵事務官鶴間良夫作成の売上調査書、仕入調査書、たな卸調査書、租税公課調査書、荷造運賃調査書、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、広告宣伝費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、福利厚生費調査書、給料賃金調査書、臨時雇人費調査書、利子割引料費調査書、車輌関係費調査書、会議費調査書、備品費調査書、支払手数料調査書、開発費調査書、衛生費調査書、除却損調査書、雑費調査書、専従者給与調査書、青色申告控除額調査書、事業専従者控除調査書、利子所得調査書、譲渡所得調査書、雑所得調査書、預金調査書、有価証券調査書、減価償却資産調査書、預金調査書、有価証券調査書、減価償却資産調査書、事業主勘定調査書

判示第一の事業について

一  被告人の大蔵事務官に対する昭和五八年七月二〇日付質問てん末書

一  小林三好の検察官に対する供述調書の謄本

一  小林三好の大蔵事務官に対する各質問てん末書の抄本

一  小林三好及び岡田邦彦の大蔵事務官に対する各質問てん末書の謄本

一  小林英文の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  検察事務官作成の昭和五九年一月二五日付(四一丁のもの及び二八丁のもの)及び同年二月二一日付各報告書

一  大蔵事務官作成の昭和五八年九月一九日付及び同年一〇月一八日付各検査てん末書

一  大蔵事務官鶴間良夫作成の小林三好分調査書、その他所得調査書

一  大蔵事務官鶴間良夫、同和田義昭作成の売上調査書、期首商品たな卸高調査書、仕入調査書、期末商品たな卸高調査書、租税公課調査書、消耗品費調査書、減価償却費調査書、給料賃金調査書、車輌関係費調査書、包装費調査書、除却損調査書、青色専従者給与調査書、青色申告控除額調査書、端数切捨調査書、その他所得調査書、預金調査書、

一  押収してある所得税確定申告書一枚(小林信善名義昭和五五年分、昭和五九年押第九八号の1の1)、所得税確定申告書一枚(小林信善名義昭和五六年分、同押号の2の1)、所得税確定申告書一枚(小林英文名義昭和五五年分、同押号の4の1)、所得税確定申告書一枚(小林英文名義昭和五六年分、同押号の5の1)、青色申告決算書三枚綴り(小林信善名義昭和五六年分、同押号の6の1)、青色申告決算書四枚綴り(小林英文名義昭和五五年分、同押号の8の1)、青色申告決算書三枚綴り(小林英文名義昭和五六年分、同押号の9の1)、決算書類七枚(同押号の10の2)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する昭和五九年二月二二日付、同月二三日付及び同月二四日付各供述調書

一  小林勇、密島百々代、和家秋雄(二丁のもの)、大貫勝数の検察官に対する各供述調書

一  小林勇、密島百々代の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  検察官作成の報告書

一  検察事務官作成の昭和五九年二月四日付報告書

一  大蔵事務官作成の昭和五八年九月二七日付検査てん末書

一  押収してある所得税確定申告書一枚(小林信善名義昭和五七年分、前同押号の3の1)、青色申告決算書五枚綴り(小林信善名義昭和五七年分、同押号の7の1)、売上帳二册(同押号の11、12)、仕入帳一册(同押号の13)、現金出納帳一册(同押号の14)

(法令の適用)

被告人の判示第一の一の所為は行為時においては昭和五六年法律五四号による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては右改正後の所得税法二三八条一項に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、判示第一の二、第二の各所為は所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役と罰金を併科し、かつその免れた所得税の額がいずれも五〇〇万円をこえるので、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第一の二の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金六〇〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留意することとする。

(量刑の理由)

納税はすべての国民の義務であり、租税は国民全体の利益の増進のために存するものであるから、その義務に違反することは、結局、国民全体の犠牲において、行為者(脱税者)のみが不当に利益を得ることになる。従って、租税ほ脱犯の被害者は、究極のところ、国民全体であるといえるものである。民主主義社会において「脱税は最悪の犯罪」といわれる所以もここにあり、反社会的犯罪であるともいえるものである。

申告納税制度のもとにおいては、国民は自己の責任において所得を計算し、誠実に納税申告をすべき義務があり、たとい、一人といえども、他の納税者の犠牲において不当に利得することは許されず、誠実な納税者だけが馬鹿をみるというような行動をとるものがいれば、それは公平な負担に反するものとして、社会一般から強い非難を受けることになる。

これを本件についてみると、本件は、判示のとおり切餠の製造販売業を営む被告人が、不正の行為により、昭和五五年、同五六年、同五七年の三か年にわたり合計三億九九一九万円余りの所得税を免れたという事案である。被告人は、犯行の動機として不況に備えるためであるとか、同業者と対抗してゆくために必要であったと供述しているが、脱税を正当化するには程遠いものである。また、本件犯行の態様も、一貫した脱税意図の下に、判示の如く多様な方法によって、本件によって摘発されるまで、継続して為されていたものであり、ほ脱税額が合計約三億九九一九万円余という著しく多額で、平均ほ脱率も九七パーセントを超えるものであることなどにかんがみると、極めて悪質重大な犯行であるといわなければならない。

してみると、被告人が今日の事業を築き上げるのに行商をするなどして必死に努力してきたこと、前科・前歴がないこと、本件犯行後本税を完納し、延滞税、重加算税について国税当局との間で、今後分割して支払って行くことで合意が成立していることなどの有利な事情のほか、被告人が服役することによって事業経営に支障をきたすことなどを被告人の有利に最大限に考慮してみても、なお、被告人の刑事責任は甚だ重く、主文掲記の刑をもって臨むのはやむをえないと判断した。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田恒良 裁判官 古口満 裁判官 駒井雅之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例